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世界の果てで Evernote を使う

堀 E. 正岳
Evernote といえばクラウドサービスの代表例です。いつでもクラウドにアクセスして、パソコンの上であれ、iPhoneからであれ、記憶をいつでも引き出せるのが Evernote の最も基本的な使い方です。

ということは、Evernote の便利さはクラウドにアクセスできない場所では半減してしまうのでしょうか。実は今回、私は本業の関係で数週間船の上で過ごすことになり、この原稿も北緯75度、東経31度の海の真っ只中で書いています。

衛星通信を介したネット環境はあるにはありますが、細々としていてとてもクラウドとの同期はできそうにありません。そんななかでも果たして Evernote は便利に使うことができるのでしょうか? 実際にやってみました。


Evernote はクラウドから片足を出している

最初からタネを明かしてしまうと、Evernote や Dropbox といったクラウドサービスの便利なところに、実はデータが手元にも完全な形で残っていて、ネット環境がなくても利用できます。

パソコンやiPhoneのEvernote クライアントをあらかじめ同期しておけば、全てのデータにアクセスすることも、検索することも可能なのです。もちろん、その時点ですでに作成されている画像文字認識データも同期されますので、オフラインでも検索は可能です。ネット環境がないとできないのは、新たなノートを作成してクラウド上に送信することと、それらを複数のデバイス間で同期することです。

オフラインでも利用出来るノートブックを注意深く選択して必要な情報を準備しておくことは、たとえ北極だろうと、宇宙空間だろうと、単に電波の届かない地下鉄の中でも Evernote を無意識に活用できるメリットがあるのです。

ストック情報に集中する

今回はネットの回線がとても細いことがあらかじめわかっていましたので、次のような点に注意して準備をしました。

  1. ふだん仕事で利用することの多い資料やソフトウェアのドキュメントといったストック情報を別のノートブックに集めて、iPhone/iPad のオフラインノートブックとして同期します。
  2. 個別に持ち歩いていると便利なノートについてはふだんからiPhone側で「お気に入り」に登録する様に習慣をつけておくことで、ネットに突然アクセスできなくなっても被害が小さくなるようにしておく。
  3. 新規のノートについては、なるべく Evernote クライアントのオフラインのノートブックに作成して、下船後に一気に同期することにする。

この最初のステップである、ストック情報を集めておくことは、あとで船の上でパソコンに向かっていない時間帯でもiPhoneから必要な地図を呼び出したり、資料に目を通すことができましたのでとても便利でした。

また、乗船してから気づいたことに、テキストのファイル程度なら衛星回線でも同期することが可能でしたので、仕事上で必要なメモ程度はメールで作成して同期させることができました。

ふだんから意識しておきたいオフラインノートブック

今回の経験で学んだのは、ふだんから最も利用するノートを受け持つノートブックを作っておき、iPhone上でオフラインノートブックをあてにする使い方を実践することで、いざネット環境がなくなったとしてもそれほど困らないという点でした。

オフラインノートブックはそれまで命綱のように考えていましたが、最初からあてにして利用することで情報がストックとフローに別れて行きますし、どんな場所でもEvernoteを使えるという自信につながります。

今回の旅はまだ終わっていませんが、一つ楽しみにしていることがあります。それはあとで陸上についたら、今回同期を待っているたくさんの写真に、この現実離れした位置情報を登録して保存することです。

案外、最北端の Evernote ノートを目指せるかもしれません。

今週の本

今回の出張の前にあらためて齊藤正明さんの『会社人生で必要な知恵はすべてマグロ船で学んだ』に目を通していました。私が乗ったのはマグロ船ではありませんが…。

実のところ、船酔いが怖かったので何か知恵はないものかと読んでいたのですが、実際に船酔いで苦しんでいる著者に船長が投げかける言葉にはっと気付かされるものがありました。

ふだん私たちは「仕事が辛い」「作業が苦しい」という感想をいとも簡単に感じがちです。それはそれで嘘のない正直な気持ちだと思うのですが、あくまで「仕事のある人」「恵まれた国に住んでいる人」の枠組みのなかでの「辛い」であり「苦しい」と気づくことは新しい勇気を見つけることではないかと思うのです。

「自分もなかなかがんばってるじゃないか」「大変だけど、悪くないぞ」こんなポジティブな力を引き出すためにも、時には視野をまったく別の場所に向けるのが有効です。そしてマグロ船や北極域に向かう船にのらなくても、読書はそれを与えてくれます。

もちろん、船に乗っても良いのですが…。


▼編集後記:
堀 E. 正岳
 実際に世界の果てに来て感じるのは、これまでに味わったことがないほどの「時間の Scarcity (稀少価値)」です。

こんな海のうえで、仮眠に仮眠を重ねながら6時間ごとに仕事の作業をこなしながらも、衛星回線を通じて仕事は次々とメールで飛んできます。答えなければいけない案件は受信箱のなかでたまっていきます。その一方で何よりも大切な家族との時間は帰国するまではお預けなのです。

何がつまらないことで、何が大事なことなのか、こうした体験はフィルターのように選別してくれます。そして本当に日常には時間を奪い去るつまらないものがなんて多いのか。

この感想を忘れないように保存して日本に持ち帰りたいと思います。


▼堀 E. 正岳:
Evernoteエバンジェリスト。「Evernoteハンドブック」の執筆や「Evernote日本語掲示板」のモデレータを通して、愛してやまないEvernoteの育て方を伝道中。Lifehacking.jp主宰。