仕事は人と人との対話から生まれるものなので、対話のないところに仕事は成立しないでしょう。そうなると仕事をするうえでは対話の巧拙が重要になってきます。
対話といえば、名著『人を動かす』があります。この本は実に豊富な事例を引きながら、いかに巧みに人を動かすかについて解説しています。おそらく理論だけなら3分の1くらいの厚さで済むのではないか、というくらいの事例づくな本で著者(デール・カーネギー)の「これでもかっ!」という声が聞こえてきそうな勢いです。
一人で仕事をやっている場合、待っていても仕事は来ないのでこちらから取りに行くことになるわけですが、なかなか思うように成約に結びつきません。こちらのやっている仕事に関心を持ってもらえたとしても、それが相手の枠の中にうまく当てはまらない限り、仕事が成立しないわけです。
こんなとき、『人を動かす』では相手に「思いつかせる」のが良いと主張しています。以下は、織物製造業者に意匠を供給するスタジオに下絵を売り込む仕事をしているユージン・ウェッソンという人の事例です。
「彼はいつも会ってくれたが、決して買ってはくれない。わたしのスケッチを入念に見て、必ず『だめですね、ウェッソン君。今日のはどうも気に入りません』という」百五十回失敗を重ねたすえ、ウェッソンは、頭を切りかえる必要があると思った。
ここで、ウェッソン氏は人を動かす法についての講習会で「わざ」を会得します。
彼は新しいやり方をためすために、未完成の絵を数枚持って買手の事務所へかけつけた。
「実は、ここに未完成のスケッチを持ってきていますが、これをどういうふうに仕あげたら、あなたのお役に立つでしょうか? さしつかえなければ、教えていただきたいと思います」。そういって彼がたのむと、デザイナーはスケッチを無言のままながめていたが、やがて「ウェッソン君、二、三日あずかっておくから、もう一度きてください」といった。
三日後、ウェッソンは再びデザイナーをたずね、いろいろと意見を聞いたうえ、スケッチを持ち帰り、注文どおりに仕上げた。その結果は、もちろん全部買上げということになった。
(…中略…)
ウェッソンはこういっている──「何年間も売り込みに失敗していたのもむりのない話だと、ようやくわかった。それまでわたしは、こちらの意見を押し売りしようとしていたのだ。今は逆に相手に意見を述べさせている。相手は自分がデザインを創作しているつもりになっている。事実、そのとおりなのである。だからこちらが売りつける必要はない。相手が買うのだ。」
示唆に富むエピソードで、身につまされるところが多くあります。
ここから学べることは、売り物を作るのは自分だとしても、それを完成させるのはお客様である、ということでしょう。
1.未完成な製品の状態でお客様に見せる
2.お客様に、ここからどうしたいかを訊く
3.言われたとおりの方向性で完成品にしあげる
考えてみれば、すでに多くのビジネスでこのようなやり方が実践されています。洋服のイージーオーダーがこれに当たりますし、テストマーケティングもしかりです。
お客様が、自分の思い通りに仕上がるのを見るのはきっと楽しいでしょう。でも、もっと楽しいのはそれを仕掛けて思い通りに動かすことができた作り手だったりするわけです。
そう考えると、「思いつかせる」ことに加えて「楽しんでもらう」ことも、相手に買ってもらう(=相手を動かす)ための秘訣かも知れません。














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