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一人ブレストの技法 ~アイデアを「選別」する~

倉下忠憲
前回はいくつかの発想法を紹介しました。慣れてくれば、アイデアを生み出すことはそれほど難しくないはずです。

「発想は、既存のアイディアの組み換えで生じる。模倣なくして創造なし。」

これは、野口悠紀雄氏の『「超」発想法』の第一原則ですが、この原則に従えば既存のアイディアをたくさん引き出しに入れておけば、新しい発想はいくらでも作り出せることになります。そうなると別の問題がでてきます。

 
 「どの発想を選択すればいいのか?」

 
今回はこれについてすこし考えてみたいと思います。

 

猿はシェイクスピアになれるのか

「猿とタイプライタ」のお話はご存じでしょうか。以下は野口悠紀雄氏の『「超」発想法』よりの一節です。

猿はタイプのキーをでたらめに叩くから、打ち出されたもののほとんどは、意味をなさない。しかし、なかには、偶然の結果として、意味がある文章も出てくるだろう。偶然に偶然が重なって、シェークスピアの名文句がたたき出されるかも知れない。

でたらめにタイプする猿がシェイクスピアの名文句を打ち出す確率はゼロではありません。しかし、その「確率」はあまり意味をなさないものです。名文句を生み出すためには、数え切れないくらいの「意味をなさない」文章が必要とされます。アルファベットという比較的限られた文字数で考えたとしても気の遠くなるような低い確率でしかシェークスピアの名文句は生まれてきません。猿がシェイクスピアになるためには圧倒的な時間がかかってしまいます。また、時間以外の問題もあります。

 
 「キーを叩いている猿には、どれが名文句なのかわからない」

 
という事。もし、猿をとびきり優秀なコンピュータに置き換えてランダムに文字を出力するプログラムで時間を短縮したとしても、あまたに出力された文章のうちどれが人の心に訴えかける表現なのかをコンピュータは判断できません。

もう少し身近な例で考えてみましょう。あなたの手元に10の既存のアイディアがあったとします。それを二つのグループに分けて組み合わせを作っていきます。Aグループ、Bグループ共に5個ずつのアイディアがあるので、25個の「発想」がでてきます。

さて、この25個のうちどれを正式なアイディアとして採用しますか。

どれもが似通っていて決め手が見つからないかも知れません。あるいはあなたが選択したアイディアが他の人から見ると大したアイディアではないかもしれません。あるいは25個のうち、一つも新しいアイディアなど無いかも知れません。

発想は、生み出す事だけではなく、最終的に何を選択するのかも重要です。その判断は人間しか行うことができず、またそれぞれの人によっても判断基準が違うという曖昧で捉えにくいものになっています。

 

成功するアイデアの見分け方

「どのようなアイデアが価値を持つのか」についての絶対的な基準というものは存在しません。しかし、判断する上で役に立つ要素はあります。特に有用なのが『アイデアのちから』という本の中で紹介されている「成功するアイデアの6つの原則」です。

原則1 単純明快である(Simple)
原則2 意外性がある(Unexpected)
原則3 具体的である(Concrete)
原則4 信頼性がある(Credible)
原則5 感情に訴える(Emotional)
原則6 物語性がある(Story)

この6つの要素を満たしていれば、印象に残りやすい(記憶に焼きつく)アイデアである、と『アイデアのちから』の中では説明されています。例えば、大ヒットした『もしドラ』もこの要素で評価してみると、

もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
岩崎 夏海
ダイヤモンド社 ( 2009-12-04 )
ISBN: 9784478012031
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

  • 原則1 単純明快である →YES
  • 原則2 意外性がある  →YES
  • 原則3 具体的である  →YES
  • 原則4 信頼性がある  →ややYES
  • 原則5 感情に訴える  →YES
  • 原則6 物語性がある  →YES

 
このような感じになります。信頼性に関しては、読者がドラッカーをどの程度信頼しているかに左右されますが、それ以外の要素はほぼ完璧です。この本のヒットから考えても、この原則を踏まえていれば人の記憶に焼きつくアイデアと言えそうです。

6つの原則の頭文字を日本語で集めると「単意具信感物」とまったく意味不明ですが、英語だとSUCCES(サクセス)_成功_ときれいにまとまります。自分が出したアイデアが成功しそうかどうかを判断する際はこれらをチェックポイントにするとよいでしょう。

 

まとめ

今回はアイデアを考える力ではなく、それを見分けることについて考えてみました。実際にアイデアを考えて形にする段階で一番難しいのがアイデアを選別することだと思います。

発想のやり方についてはある程度マニュアル的に学ぶことができますが、「良いアイデアを見分ける力」というのは感覚やセンス的なものなので、一朝一夕には身につきません。今回紹介したSUCCESチェックポイントも便利ですが、日常的に世の中にあるアイデアを観察し、「何が良いのか」「どの要素が良いと感じられるか」をチェックしておくことでアイデアを選別する力を磨いておく事も必要だと思います。

▼参考文献:

発想や発想法についての考察と提案。

「超」発想法 (講談社文庫)
野口 悠紀雄
講談社 ( 2006-06-15 )
ISBN: 9784062754316
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

 
影響力のあるアイデアについて知りたければこの一冊。Good Bookです。

アイデアのちから
チップ・ハース, ダン・ハース
日経BP社 ( 2008-11-06 )
ISBN: 9784822246884
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

▼今週の一冊:

最近、ソーシャルメディアやそれを使ったパーソナルブランディングというものが盛り上がりつつあります。個人的にも興味のある対象なのでぼちぼちと関連書籍を読んでいるのですが、印象に残ったのが次の一冊。

ブランディングの具体的な手法、というよりも、ソーシャルメディアが当たり前の時代に個人はどのように生きていければいいのか、というある種の人生哲学のような内容になっています。全ての人がゲイリーのような生き方を選択する必要は無いでしょうが、ある種の熱意を具体化できる可能性について知っておいても損はないかも知れません。

 

▼編集後記:
倉下忠憲
3週間ほど前の編集後記で書いた「リュウド Bluetoothキーボード」がようやくアマゾンから届きました。

 
在庫不足だったんですかね。とりあえず、外に持ち出してiPhone3GSと組み合わせて使っています。第一感は「モバイル使用にこだわった一品」、という感じ。キーボードとしては満点ではないでしょうが、モバイルキーボードとしては満点のガジェットです。

 

 
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。