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新しい時代における「インプット」「アウトプット」

倉下忠憲
40年前と比べて、私たちを取り巻く「情報環境」は大きく変化しました。情報を入手するのは新聞・書籍や論文からだけ、という時代からネットを介する事で一個人がほぼ無料に近いコストで様々な情報にアクセスできるようになっています。

そういった環境の変化の中で、情報を扱う技術や接し方も変化せざる得ない状況です。もし昔のやり方のまま、この情報化社会に立ち向かおうとすれば、たちまち情報の波に飲まれてしまうでしょう。

実は、昔から世の中に存在する「情報の総量」は人間が一生で扱いきれるキャパシティーをはるかに超えていました。ただ、昔はその情報と個人とが切り離されていたので、このような問題について考える必要はありませんでした。

しかし、今では普通に生活しているだけでもかなりの量の情報が個人に向かって流れ込んできます。それはある種便利さの象徴でもありながら、我々を煩わせる要因の一つとしても考えられます。

今回はそのような深化した情報化社会の中で、旧来の「インプット」「アウトプット」にどのような変化が必要なのかを考えてみたいと思います。


 

スルー・インプット

インプットの変化は、ネット情報との接し方が基本になってきます。

立花隆氏は佐藤優氏との共著『ぼくらの頭脳の鍛え方』の中でこのように述べています。

p55
ただ、今の若い世代はインターネットに脳が順応しているわけです。もう、我々の想像を絶するスピードで検索していきます

p56
インターネットの場合、バーッと流して見ていって、探している単語なりが引っかかったらそれでいいわけです。インプットではなくスループットの検索。今の若い人たちのなかからは、われわれが考えられないくらいスループット能力に優れている人も出てきているかもしれません。

また、『知の現場』という本の中で久保田達也氏も同様の事を述べられています。

p106
今の若者の傾向として、効率よく、そこそこ、ひととおり、という広く浅くという感じがある。それは、これだけの情報化社会にいれば当然なのかもしれない。確かなことは、
「情報を処理する能力は、我々世代よりはるかに上だ」ということだ。

現代の若者はほとんど当然のように、ネット上の溢れかえる情報に「広く、薄く、素早く」接しています。これを軽薄だ、軟弱だ、と非難する事には何の意味もありません。

ネットの向こう側に広がる広大な情報の海を当然のものとして受け入れた場合、そのようなスループットによる対処はごく自然なものだと思います。

情報を精査しながらじっくり吸収するのではなく、情報をざっと流し読みしていき、引っかかってくる情報だけを拾い上げていく手法。それをとりあえず「スルー・インプット」と呼ぶ事にします。

書斎の本や論文だけで情報が扱いきれた時代では、じっくり型の「インプット」だけで対応できましたが、これぐらいネットの情報が多くなってくると、この「スルー・インプット」のスキルも必要になってきます。

例えば、このシゴタノ!でもおなじみのLifehacking.jpの堀さんは「RSS 速読術:未読 500 件を 5分 で高速流し読みする方法」という記事でまさにその「スルー・インプット」型の手法を紹介されています。

また、以前この連載でも紹介した「えり分け」も同様に「スルー・インプット」型の手法です。

もちろん、スルー・インプットだけで十分というわけではありません。あくまでこれは多くの情報の中から自分にとって意味のある情報を見つけ出すための手段です。

自分の中に情報をしっかりと取り込んでいく「インプット」の重要性は変わりません。むしろ、本質的な情報を内側に取り込むインプットの重要度はさらに増していくかもしれません。

 

ショート・アウトプット

インプットと同様にアウトプットの変化もネットに関係してきます。本や論文を書くというまとまった「アウトプット」に対して、細かい情報を出していく「ショート・アウトプット」が無視できない存在になってきています。

告知としてのアウトプット

例えばビジネス書を想像してみます。一体何冊のビジネス書が一ヶ月に「新刊」として発売されるでしょうか。もちろん私は正確な数を知りません。しかし一ヶ月経てば、書店の新刊コーナーの顔ぶれが一新されてしまう、ということは経験として知っています。

今では「本を出す」という大きなアウトプットだけではとても目立つ事などできません。現代の著者は「何を書くか」に加えて「どうアピールするか」も考えないと、せっかくの力作も雑多な情報の波に流されてしまう事になります。

定期的に更新するブログ、どこかのウェブでの連載、メルマガなどで告知していく必要があります。あるいはTwitterを使った告知などもごく自然に行われています。

スピード感

この変化は本の著者だけではありません。ブログの管理人でも、その知名度を上げていくためにはTwitterなどのツールは無視できない存在です。

Blogの黎明期は数自体が少なかったので更新しているだけで十分に注目を集めました。今ではいくらでも個人のBlogが存在しています。このような状況だと、週一回程度の更新では目立ちようがありません。

その間を埋めるために、ミニブログでちょっとした感想を書いたり、Twitterなどの「つぶやき」ツールを使い日常の視点を少しずつアウトプットします。それによって、ようやく自分の存在を目立たせる(リマインドさせる)ことができます。

つながりを生み出す力

もちろん、そういった自己アピールだけがこういったショート・アウトプットのメリットではありません。

大きなアウトプットの前段階、たたき台として短めのアウトプットを行い、その反応を探るということもできます。この場合のショート・アウトプットの特徴は二つあります。

・レスポンスの良さ
・伝達の広さ・早さ

どちらも「発言の敷居の低さ」で説明できますが、詳しい説明は割愛します。

ショート・アウトプットをうまく使えば、単に自分が発言するだけではなく、そこからのリアクションがあったり、自分とは交流がない人にまで発言が届く可能性があるということです。

 

まとめ

今回はインプットとアウトプットの新しい形について見てきました。大きくまとめると

  • インプット
  • スルー・インプット
  • アウトプット
  • ショート・アウトプット

この4つの型があると思います。もちろん、何もかもを明確に分類できるわけではありません。ただ、意識したいのは全ての情報を「平等」や「均等」に扱う必要はない、ということです。

本という一つの情報源でも、じっくりインプットしたい本もあれば、流し読みのスループットで十分と感じる本もあると思います。
逆にネットの情報は全て流して見ればそれでいい、といわけでもありません。

あるいは、月に一回超大作のブログのエントリーを書いたとしても、それが誰かの目に留まらなければ一瞬で「過去の作品」になってしまいます。
※検索万能の世界においては、検索されなければまず目に留まらないというデメリットも生んでしまっています。

「インプット」「アウトプット」は旧来的な手法と言えますが、その価値は失われておらず、これからも大きな意味を持つでしょう。

「スルー・インプット」「ショート・アウトプット」は若い世代は当然のように使いこなし、これからも脳をネットに順化させた人々が新しい手法を見いだしていくと思います。
※そしてそれは、おそらくショート・アウトプットされていくでしょう。

この新旧二つの軸を持つ事が、新しい時代における情報とのつき合い方となると思います。

▼参考文献:

この一冊を読めば読みたい本が30冊ぐらい増える驚きの本です。

ぼくらの頭脳の鍛え方―必読の教養書400冊 (文春新書)
立花 隆・佐藤 優
文藝春秋 ( 2009-10-17 )
ISBN: 9784166607198
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

 
さまざまな著名人の「知的生産の現場」が紹介されています。自分の「型」についてお悩みなら参考になると思います。

知的生産の技術研究会
東洋経済新報社 ( 2009-12-23 )
ISBN: 9784492043615
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

▼関連エントリー:

シゴタノ!情報に押し流されないための基本的なテクニック 
RSS 速読術:未読 500 件を 5分 で高速流し読みする方法 | Lifehacking.jp 

▼今週の一冊:

自分の人生が全て「記録」できるとしたら・・・。そのような世界の可能性はもはや簡単に現実に転化できるとこまで技術の進歩は来ています。

このような世界に対する反応は二つに分かれるでしょう。すなわち「賛美」あるいは「恐怖」。どちらであるにしても、その進行を止める事はできそうにありません。「ライフログ」は、これからの情報とのつき合い方を考える上でも避けては通れないものだと思います。

ライフログのすすめ―人生の「すべて」をデジタルに記録する! (ハヤカワ新書juice 10)
ゴードン ベル, ジム ゲメル
早川書房 ( 2010-01-25 )
ISBN: 9784153200104
おすすめ度:アマゾンおすすめ度

 

▼編集後記:
倉下忠憲
今回で11回目のエントリーになります。シゴタノで書くのに慣れたか、というとまったく慣れていません(笑)。毎回、自分の想像を超える反響をいただけるので、その度ごとに「シゴタノ!」という土俵の大きさを思い知らされています。

 
 
▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。