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概念(コンセプト)の作り方・整え方 | Aliice pentagram

倉下忠憲

» 前回:カードとデッキからみる概念(コンセプト)の重要性 | Aliice pentagram



前回は、カードゲームにおけるデッキ作りを例に挙げて、概念(コンセプト)がいかに重要なのかを考えてみました。さらに、カードとデッキの関係性についても触れました。両者は独立して存在するわけではなく、互いに関係し合っています。

それを踏まえた上で、今回は概念(コンセプト)の作り方について考えてみましょう。

二種類のアプローチ

コンセプト・メイキングは、一般的に二つの方向が想定されます。一つは、上から。もう一つは、下からです。

上から作っていく手法は、いわゆるトップダウン型のアプローチです。たとえば、「頭が良くなる読書術」というタイトルを真っ先に考えて、それに合わせて内容を考えていく、というのがこのアプローチとなります。具体的には、

頭が良くなる読書術

  • 第一章 なぜ読書は頭に良いのか
  • 第二章 スタージョンの本選び
  • 第三章 ブレイクファースト読書のススメ
  • 第四章 脳に刷り込む読書メモ
  • 第五章 賢者の書斎作り

のように、まずタイトル(テーマ)を章に分解し、次のその章を項に分解し、という方向で少しずつ詳細を明らかにしていきます。

対して、下から作っていく手法は、少し時間がかかります。まず、さまざまな思い付きやアイデアを書き留めておき、それらが一定量集まったら、そこから何が言えるだろうかを考えます。こちらは実例を挙げるのが非常に難しいのですが(なにせ扱う要素の数が膨大になります)、たとえば以下のようなアイデアノートをぼんやりと眺めて、



近しい要素同士を小さな塊として扱い、その小さな塊から中ぐらいの塊を作って、さらに大きなサイズの塊へと流れていくのがこのアプローチです。ボトムアップ型のアプローチとも呼ばれます。

どちらが良いのか

さて、このどちらの手法を使えば良いのでしょうか。

実は、どちらでも構いません。正確には、スタートはどちらでも構いません。

どういうことでしょうか。

トップダウン型で詳細を明らかにしていっても、そのままストレートに話が進むことはまずありません。項目を列挙していくうちに、項を変えざるをえないことは多々出てきます。その結果が章が変わったり、あるいは全体のテーマが変わることすらあります。構造が変化するのです。

ボトムアップ型のアプローチでも同様です。詳細から少しずつ全体像を作っていく場合でも、最後に出てきた全体を統一するテーマによって、個々の詳細が動いたり、変化したりといったことは珍しくありません。

総じて言えば、トップダウン型であろうとボトムアップ型であろうと、互いに逆向きのアプローチを必要とします。つまり、どちらの手法を選んでも構いませんが、どちらかの手法だけしか使わないことには問題があるわけです。必ず、逆向きのアプローチを入れること。それが肝要です。

そもそも、本のタイトルや企画(コンセプト)を先に思いついてしまったら、ボトムアップすることはできません。必然的にトップダウンでスタートを切ることになります。逆に、アイデアがたくさん集まってしまったら、ボトムアップから始めるしかないでしょう。開始時点を一つに定めてしまうのは、発想の多様性から言えば、いびつな行為と言えそうです。

トップダウンからスタートして、ボトムアップで戻る。あるいはボトムアップから出発して、トップダウンで返ってくる。その〈行ったり来たり〉を何度繰り返すか、ということが一番大切なことです。

BF法

この〈行ったり来たり〉を明示的に組み込んだのが、「ブレイクダウン・フォローアップ法」(BF法)です。

まず何かしらのテーマを立てて、それに基づいて章立てまでを行います。先ほどの例を繰り返せば、

頭が良くなる読書術

  • 第一章 なぜ読書は頭に良いのか
  • 第二章 スタージョンの本選び
  • 第三章 ブレイクファースト読書のススメ
  • 第四章 脳に刷り込む読書メモ
  • 第五章 賢者の書斎作り

までを考えるわけです。

トップダウン方式であれば、ここからさらに細分化を進めるわけですが、BF法では、そこで一旦手を止めます。そして、代わりにその章題に基づいて文章を書いてしまいます。厳密な構成については考えません。ある種のテーマ設定型フリーライティングに近いものと言えるでしょう。

そうして文章を書いていくと、「あれについても書いておかなければ」「あの説明はこれよりも前に置いた方が良い」といったことが少しずつわかるようになってきます。肉と骨についての情報が明らかになってくるのです。

そのような情報に基づいて構成に手を入れ、またそれで文章を書く、という風にトップからの方向とボトムからの方向を行き来するのがBF法です。

この方法のポイントは、途中の段階の構成案はすべて仮のもの・たたき台のスナップショットとして捉えることで、これは『アウトライナー実践入門』で紹介されているシェイクの考え方にも強く呼応しています。

» アウトライナー実践入門 ~「書く・考える・生活する」創造的アウトライン・プロセッシングの技術~[Kindle版]


さいごに

今回は、本のコンセプト・メイキングを中心に紹介しましたが、その他の成果物でも似た要素は多いでしょう。

大テーマからスタートするにせよ、集まった素材からスタートするにせよ、〈行ったり来たり〉の視点は必要であること。それによって、全体を統一するテーマと、そこに集まる素材の調和が取れていること。これがコンセプトを、コンセプトとして際立たせます。

コンセプトは〈行ったり来たり〉で整える。

これがコンセプト・メイキングのコンセプトです。

▼今週の一冊:

考えてみると、映画も似たような手法で作られるのかもしれません。トップダウン的にコンテが描かれ、それに基づいてシーンが撮影され、撮影したシーンをベースに編集的にそれらをつないで「全体」を構成する。おそらく、撮影前に監督の頭の中にあった「映画」と、実際に生まれた「映画」は完全に同じではないでしょう。〈行ったり来たり〉が行われたわけです。

アニメ監督である神山健治さんによる、映画制作論。テレビ版の攻殻機動隊が好きなら、きっと面白く読めます。

» 映画は撮ったことがない ディレクターズ・カット版


▼編集後記:
倉下忠憲



まだ発売日は未定なのですが、2012年発売の拙著『Evernoteとアナログノートによる ハイブリッド発想術』の電子書籍化が進んでおります。

5年も経って大丈夫かよと思いながらひさびさに読み返してみましたが、大丈夫、今でもぜんぜん面白いです。

というわけで、発売が待ち遠しいですね。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由