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記録管理について | Aliice pentagram

倉下忠憲

» 前回:脳に入れる情報 | Aliice pentagram



「知的生産の五芒星」の二点目をなすのが、「記録管理」です。

記録が無くては始まらない、というくらい知的生産にとって記録は大切なものですが、それはなぜ大切なのでしょうか。

まずはそれについて確認していきましょう。

自動の情報処理システム

脳は、それ自体が一つの情報処理システムです。しかも、勝手に動いてくれる極めて優れたシステムです。

一日の終わり、眠りに就く前に「この記憶とこの記憶は鮮明にして保存、それ以外は不必要だから消去」なんて考えることはありませんよね。また、そう考えたところで、その通りに実行されるとも限りません。脳は、意識と完全に無関係ではないものの、意識されることなく記憶の選別や保存や強化を行うシステムです。

このシステムは、いちいち意識しなくても動いてくれる点はありがたいのですが、もちろん困ったことも起こります。憶えておきたいものを忘れてしまったり、忘れたいものをずっと憶えていたりするのです。また、そうして蓄えた情報を適切に想起できるとも限りません。なかなか思い出せなかったり、不正確に思い出したりすることもあります。

どれだけひいき目に見ても、完璧にはほど遠いシステムです。でもって、それが知的生産のパートナーであり、作業場所であり、素材置き場なのです。弱点を補う何かが欲しいところです。

それが記録というわけです。

記録の二つの意義

知的生産における記録は、大きくわけて二種類の意義を持ちます。

  • 再想起のきっかけ
  • リファレンス

再想起のきっかけ

自分が何かを思いついた、考えた、ということを「思い出す」のがこの記録の役割です。

一番はっきりしているのは着想メモで、それを読み返せば、「そうだ、自分はこういうことを思いついたのだ」ということが思い出せます。もちろんそれは知的生産の素材や動機付けとして機能してくれるでしょう。おそらく適切な表現ではありませんが、あえてイメージ喚起力を強める言い方をすれば、「一度発火したニューロンを、再発火させる」のがこの記録の役割です。

リファレンス

「見た」けれども、暗記はできなかった情報に、再接近できるのがこの記録の役割です。

一番具体的なのはスクラップブックで、それを読み返せば、「そうだ、自分はこういう記事を昔読んで、面白いと思ったのだった」ということが思い出せます。もちろんそれは知的生産の素材となってくれます。ただしそれは外部の情報でしかありません。着想メモは、自分の脳内で起きた出来事の再現となりますが、こちらの記録はあくまで他の誰かが作り出したアウトプットをもう一度参照できるようになるだけです。この二つは厳密にみると別物ですので、注意が必要でしょう。

もちろん、記事のスクラップに「この記事を読んで、○○が気になった」というメモが書き残されていた場合は、両方の要素が残ることになります。記憶の種類を持ち出せば、意味記憶とエピソード記憶が入り混じったものになるわけです。このあたりが記録の妙でもあります。

記録の問題

上記のような記録を残していけば、記憶が勝手に処理してしまう大量の情報を扱えるようになります。

これはこれでありがたいのですが、一つ問題もあります。それは「記録を作ったこと」もまた、一つの記憶である、ということです。ですので、せっかく作った記録がうまく使えない可能性も出てきます。逆に言えば、記録作りやその使い方においても、記憶が持つ弱さについて配慮する必要があるでしょう。

また、記憶には長期記憶と短期記憶の二種類がありますが、記録の使い方もその二種類に呼応したものが出ててしかるべきです。言い換えれば、長期記憶のフォローの仕方、短期記憶のフォローの仕方がある、ということです。

以上のように、記録さえ作れば、記憶の弱点は完璧にフォローできるとは言えません。記録の作り方・残し方・使い方に工夫が必要になります。

さいごに

といった点を含めて、ここからしばらくは「記録管理」について考えていくとしましょう。

鍵を握るのはやはり脳です。素材置き場であり、作業場所であり、いっそ作業者でもある脳の記憶といかに付き合っていくか。その視点が、記録管理には欠かせません。記録管理は大量の情報を扱うわけですが、そこからスタートしてはいけないのです。それだとほとんど確実に私たちは情報の波に流されてしまうでしょう。

スタート地点にするのは脳です。情報を生み出す主体となる脳。これを基軸にして「記録管理」体系を完成させていきたいところです。

▼今週の一冊:

『クラウド化する正解』や『ネット・バカ』でお馴染みのニコラス・G・カーの新作。彼のブログ記事や雑誌への寄稿をまとめた本です。ツイッターの「名言」もまとめられています。

基本的には、ネットがもたらす力に一定の敬意を払いながらも、ネット産業にうさんくさい視点を投げかけながら、私たちとテクノロジーの関係に再考を促す内容となっています。ユーモアというか毒舌の風味があるので、そういう論説が好きならば楽しめるでしょう。

» ウェブに夢見るバカ ―ネットで頭がいっぱいの人のための96章―


▼編集後記:
倉下忠憲



さて、新年に入って、1月に発売予定の電子書籍の手入れを始めています。数年前に書いた文章のリライト作業なんですが、これが思った以上に苦戦です。文体がけっこうはっきりと変わっているのかもしれません。そのあたりをじわじわ進めていきたいところです。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由