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楽しく知的生産 第一回:楽しくメモする



倉下忠憲

「知的生産」と聞くと、一見物々しそうに感じたりするわけですが、実際そんなことはありません。

うんうん頭をひねったり、眉を寄せて脳を絞り出したりする作業がゼロということはないにせよ、全体的には楽しい作業で満ちあふれています。

私にとってはそれはあまりにも自明のことであり、まったく気がついていなかったのですが、もしかしたら「知的生産」は「楽しいこと」だと思われていない可能性に思い至りました。

そもそもこのブログは「仕事を楽しくする研究日誌」なのに、あまり「楽しい」に焦点を置いてこなかったこともあります。

そこで、「楽しい」をキーワードにして、知的生産の技術を再点検する短期連載を始めてみます。

第一回のテーマは、メモ。

基本中の基本ですね。

メモ帳の選定

まずはツールの準備から。

正直に言って、ツールはなんでも構いません。ささっとメモが取れるなら、何を選んでも機能は満たします。しかし、その考え方自体が、メモを習慣化している人の発想ということもあります。

よって、スタート時点ではツールの選定も、少しこだわった方がいいかもしれません。

具体的には、「持ち歩くのが楽しくなる道具」を選ぶのです。使いやすさは最低条件ではありますが、それに加えて「見た目のかっこよさ」や「好みの色」なんかも考慮してみればいいでしょう。

おそらくこのツールの選定自体が一つの楽しさを持っています。勇者ご一行が武器屋にいって自分の手に馴染む武器を選ぶような感覚で、ツール選びをしてみるとよいかもしれません。

メモ習慣の定着

メモの運用において、一番挫折が発生しやすいのが、メモを習慣づけることです。

メモ帳をカバンの中に入れおき、いつでも取り出せるようにするまでは簡単にクリアできます。なにせ物を準備すればよいだけです。しかし、そうしたメモを実際に取り出し、頭の中に浮かんだことを書き留める行為を習慣にするためには、クリアすべき課題が多数存在しています。

そこで、ゲーミフィケーションです。習慣化のきっかけとなる行動を、ゲーム感覚で動機づけるわけです。

まずは習熟度合いでレベル分けしてみましょう。たとえば、次のようになります。

  • Level 1:事実をメモする
  • Level 2:観察テーマを設定する
  • Level 3:数をカウントする

一つのレベルがクリアできたら、次のレベルに進む。そうやって「レベルアップ」感覚を味わうわけですね。

個々のレベルについては、もう少し詳しくみていきましょう。

事実をメモする

一番簡単なのが、着想ではなく、事実をメモすることです。なにせ頭をはたらかせる必要がありません。

習慣化の初期段階では、定期的にその行動を実施する必要があるわけですが、「何かを思いついたらメモする」というのでは、実施されたりされなかったりとばらつきが生じます。その点、事実のメモなら、対象さえ間違えなければ毎日発生してくれるので、習慣化向きです。

飽きないように、できるだけ毎日変動する対象が良いでしょう。「その日の天気・気温」「日経平均株価」「自分のTwitterのフォロワー数」「ブログのアクセス数」……なんだって構いません。もし自分が興味を持っている分野があるなら、そこから対象を選んでみるのもよいでしょう。

ちなみに淡々と事実をメモし続けるのは非常に地味です。こればかりずっと続けていると、確実に飽きてきます。そこで、ある程度(2週間ほど)事実のメモが続いたら、次のレベルに進みましょう。

観察テーマを設定する

事実のメモは、言わば「定点観測」ですが、そこから一歩足を踏み出して「フィールドワーク」をやってみます。

何かしらテーマを設定して、自分からそれを探しにいきます。「興味を惹かれた宣伝・キャッチコピー」「行列が出来ているお店」「RTされてきた人気のツイート」「本に書いてあった名言」「かっこいい服のデザイン」……なんだって構いません。「気になるもの」を探して、それをメモするのです。

これも事実のメモではありますが、そこに「なぜそうなのか?」といった観察を書き加えることができます。そうした行為になれてくれば、「着想メモ」の習慣まではあともう一歩です。

数をカウントする

観察テーマに慣れてきたら、テーマ設定から卒業しましょう。特定のテーマにこだわることなく、自分の視野に入るものすべてをテーマとするのです。そして、思いついたもの・疑問に思ったこと・新しいアイデアの可能性などをメモ帳に書き込んでいくようにします。

もう、これでほとんど卒業なのですが、もう少し加速するためにメモした数をカウントするようにしましょう。

具体的には書き込み一つ一つにナンバリングするだけです。そうすれば、「着想メモを100個」といった目標を立てることができますし、それがメモを続けるプラスアルファの動機づけとして機能してくれるでしょう。

もちろん、メモが習慣化されたなら、そうしたナンバリングを無理に続ける必要はありません。面倒になって、逆に続かなくなる弊害もあります。補助輪は外してしまいましょう。

さいごに

以上書いたようなことを、「面倒だな」と感じた方は、むしろ自分でそうした「ゲーム」をデザインしてみてください。「自分にメモを習慣化させるためのゲーム」を、自分で考えるのです。ゲームを作るというゲームも楽しいので、そういうアプローチもありでしょう。

ちなみに知的生産に関しては、「成果」を動機づけにすると実はあまりうまくいきません。なぜなら、メモやノートは、習慣化とストックがものを言うからです。つまり初期の段階では「成果」はまったく得られません。手応えがないのです。だから「成果」を動機づけに使ってしまうと、早々に挫折します。

だからこそ、「楽しさ」にフォーカスするのが良さそうです。少なくとも、続けるためにはそのアプローチが良いでしょう。

▼参考文献:

本稿のメソッド自体はこの本に書いてありますが、それを「楽しく」という視点で再構成してみました。

» 超メモ術 ―ヒットを生み出す7つの習慣とメソッド (玄光社MOOK)


▼今週の一冊:

アリエリーさんの本が好きなら間違いない本です。これまでの本よりもユーモア成分が多い印象。Q&Aならではといったところですね。講義を覗いているような雰囲気も味わえました。

しかしながら、心理学・行動経済学の研究者には、「風変わり」な人が多い印象です。

» アリエリー教授の人生相談室 行動経済学で解決する100の不合理 (早川書房)[Kindle版]


» アリエリー教授の人生相談室──行動経済学で解決する100の不合理


▼編集後記:
倉下忠憲



なんだかんだで毎日少しずつ原稿を書いています。コミットしている対象が増えたので、「一気にまとめて」よりも、「毎日少しずつ」にシフトせざるを得ません。自作の電子書籍はもう少しで完成、電子マガジンに関してはようやく準備の態勢が整ってきた、というところですが、Honkureやらのきばトークやらもやっています。いろいろあります。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由