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ライティングツールのプロパティ


倉下忠憲パソコンで文章を書くツールはいろいろあります。そして、それぞれのツールは特色を持っています。

その特色の違いによって、うまく使える状況とそうでない状況が生まれるわけですが、もしかしたらその違いは捉まえにくいかもしれません。

というわけで、最近私が使っているいくつかのライティングツールを分類してみました。

ライティングツールの分類

イメージしたプロパティは三つです。

  • 「ファイル指向・ワンライブラリ指向」
  • 「ローカル指向・クラウド指向」
  • 「ダイレクト指向・インターメディエイト指向」

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※無理矢理平面に置いていますが、特にマトリックスというわけではありません。

テキストエディタ+クラウドストレージ

まずは普通のテキストエディタ。これは「ファイル指向」「ローカル指向」「ダイレクト指向」で、そこにクラウドストレージが加わると、「ファイル指向」「クラウド指向」「プロジェクト指向」になります。

最近のクラウドストレージは大抵の端末に対応していますし、テキストファイル自身もほとんどのOSで扱えますので、「クラウド力」(さまざまな端末で使える可能性)はかなり大きいと考えてよいでしょう。

(ちなみに画像ではCotEditorとDropboxを挙げていますが、あくまで代表例です)

Scrivener

Scrivenerは「ファイル指向」「(やや)ローカル指向」「インターメディエイト指向」です。

Scrivenerはプロジェクトごとにファイルを作ることが想定されています。そのファイルをクラウドストレージで共有すれば、一応はクラウド対応できるのですが、おせじにもテキストファイルのような扱いやすさがあるとは言えません。さらにスマートフォンでは(現状)絶望的です。

Scrivenerの面白い点は、このツールで「原本」を作り、必要なフォーマットに合わせてデータを「書き出す」という点です。テキストファイルならば、それが成果物(提出物)になることが多いですが、Scrivenerのファイルをそのまま提出することはまずありません。テキストファイルなりPDFファイルなりに「書き出した」ものを提出します。つまり本ツールは「中間物」を作るためのツールです。

Ulysses

Ulyssesは「ワンライブラリ指向」「(やや)クラウド指向」「インターメディエイト指向」です。

Ulyssesは、個別にファイルを作りません。このツールそのものがFinder(Windowsで言うところのエクスプローラー)みたいなものです。ユーザーはこのツールの中で自由にテキストを作れます。またMac版、iPhone版、iPad版があるので、クラウド感は高いのですが、WIndowsには開かれていません。よって(やや)クラウドという位置づけです。

Ulyssesも、Scrivenerと同じように「中間物」を作ることが想定されています。いくつかのフォーマットに書き出しが可能なので、Ulyssesで「原本」を作り、状況に合わせてフォーマットを選択する、という使い方になります。ただし、この書き出しにおいて、UlyssesはScrivenerほどカスタマイズは効きません。あらかじめ準備されたフォーマット・スタイルを使う、という運用法になります。

WorkFlowy

WorkFlowyは、「ワンライブラリ指向」「クラウド指向」「インターメディエイト指向」です。

WorkFlowyは、クラウドのアウトライナーで、しかもファイルを作りません。ユーザーは単一のアウトラインだけを持ち、すべてをその下に配置していくことになります。ブラウザからアクセスできるのでクラウド感はばっちりです。

WorkFlowyは基本的にアウトライン(階層を持つテキスト)なので、成果物が「リスト」でない限りはそのままでは扱いにくいものがあります。その点をExportという機能でフォローしているのが特徴で、その点が「インターメディエイト指向」でもあります。またユーザー有志によるスクリプトの開発も盛んで、それがより「インターメディエイト指向」に拍車をかけています。

Evernote

Evernoteは、「ワンライブラリ指向」「クラウド指向」「(やや)ダイレクト指向」です。

Evernoteは、個別のファイルを作りません。実際にはそれぞれのノートに対応するファイルが裏で作られているのですが、ユーザーはそれを特に意識する必要はありません。情報の操作は、すべてEvernoteというツールの上で完結します。さらにクラウド対応もバッチリです。

ただし、Evernoteのノートはリッチテキストであり、一応そのまま「成果物」として提出ができます。少なくとも、最低限の見栄えは整えられるわけです。が、気楽な情報交換か、あるいは相手がEvernoteユーザーでない限り、ビジネスユースでの「成果物」としては扱いにくいかもしれません。そのあたりが(やや)ダイレクト指向な理由です。

さいごに

今回は、ライティングツール(文章生成ツール)の特性をいくつかの視点から覗いてみました。

実際は、「扱えるのが文章だけか、それ以外もか」という視点もここに入るのですが、さすがにややこしくなるので今回は割愛しました。一応書いておくと、ScrivenerとEvernoteの二つはマルチメディア指向です。

ここまで書いてくると「最強の文章生成ツールはどれだ!」みたいなことを決めたくなってくるのですが、それはまあ適材適所なので、あとは使ってみて感触を確かめてみてください。

▼今週の一冊:

ペンで闘うとは、いったいどういうことなのか。それを本書は明らかにしてくれます。

権力に近寄らず、派閥を作らず、自分で原稿を書き、自分で雑誌を作る。

カール・クラウスのようなスタイルこそ現代では必要なのかもしれません。でも、彼の生涯を覗いてみると、それは大変厳しいのだろうな、ということもわかります。

» カール・クラウス 闇にひとつ炬火あり (講談社学術文庫)[Kindle版]


» カール・クラウス 闇にひとつ炬火あり (講談社学術文庫)


▼編集後記:
倉下忠憲



紙と電子書籍のそれぞれの新刊が発売になり、それなりに好評をいただけているようで一安心です。確定申告も無事終わりました。あとは、次の電子書籍ですね……。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。


» ズボラな僕がEvernoteで情報の片付け達人になった理由