※当サイトはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。

社会への参加、そして価値を生み出す 〜あたらしい知的生産試論(4)〜

medium_7941095992
photo credit: Si-MOCs via photopin cc

倉下忠憲

前回の続き。

今回は、知的生産の目的について考えてみます。

知的生産の対極?

第一回記事へのコメントで、「知的生産の対極は、空言かもしれない」という意見を見かけました。

なるほど、と感じます。大辞林によると、「空言」(くうげん)とは、

①根拠のないうわさ。虚言。 「 -に惑わされる」
②実行できない口先だけの話。 「 -を吐く」

という意味のようです。すると、手段ではなく、目的を中心軸に取った場合、知的生産の対極は空言になるかもしれません。

企業活動のモデル

企業活動で考えてみましょう。

何かを生み出して、それを買ってもらい、売り上げ(利益)を作る。

ごくシンプルですが、一般的な企業が行っているのはこんなモデルでしょう。そして、おそらく一般的な企業とは言い難い、詐欺を行っている組織もまた、同じようなモデルになっているはずです。たとえば、

架空の投資話を作り出して、それを買ってもらい、売り上げ(利益)を作る。

という感じ。

このように抽象化すれば、両者は非常に似通ってきます。でも、もちろん同じであるはずがありません。

企業の目的とは

ドラッカーは、「企業の目的は顧客を創造することである」と説きました。それはつまり、顧客の抱えている問題を解決したり、満たされていない欲求を充足させたり、求めている価値を提供したり、といったことが企業の目的である、ということです。

企業をはじめとするあらゆる組織が社会の機関である。組織が存在するのは組織自体のためではない。自らの機能を果たすことによって、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たすためである。

一般的な企業はそのために製品やサービスを生み出します。詐欺組織は、問題や欲求を釣り餌にして何かを売ろうとします。問題解決など、はなから意図していないのです。

知的生産と空言の関係性は、この対比に非常によく似ています。

社会参加としての知的活動

梅棹忠夫さんは『知的生産の技術』の中で、こんなことを書かれています。

現代では、その事情がかわりつつあるのだ。知的活動が、いちじるしく生産的な意味をもちつつあるのが現代なのである。(中略)また、人間の知的活動を、教養としてではなく、積極的な社会参加のしかたとしてとらえようというところに、この「知的生産の技術」というかんがえかたの意味もあるのではないだろうか。

ポイントは「積極的な社会参加のしかた」という部分でしょう。この部分がドラッカーが説く企業の目的と絶妙に呼応しています。

知識労働者が行う知的生産はもちろん仕事のためです。それは仕事を通して会社に貢献することを意味しますし、企業はそれを集めることによって社会に貢献します。ここでは非常にわかりやすい形で、知的生産が「積極的な社会参加」につながっています。

そして現代__情報が誰にでも発信できるようになった時代__では、その他の領域でも、同じような接続が生まれているのです。

家庭における知的生産も、セルフパブリッシャーとしての知的生産も、情報社会市民としての知的生産も、何からの形で社会につながっています。もっと言ってしまえば、社会に価値を増やすことにつながっています。

といっても、それが大層なものである必要はありません(もちろん、大層なものであっても構いません)。他の人にとって便利な情報を提供するとか、面白い話題を提供するとか、楽しい物語を語るとか、そういったことも広い意味では「社会に価値を増やしている」ことになります。

梅棹さんは「知的活動が、いちじるしく生産的な意味をもちつつあるのが現代」だと書かれました。「生産的な意味を持つ」というのは、「価値を増やせる」と同じ意味です。ゴミをたくさん作れることを「生産的である」とは言いません。

価値があるものを増やす__それが「生産」という言葉に込められたメッセージでもあります。

さいごに

前回の話と合わせて考えると、知的生産とは、

「自分なりの情報発信で、社会に価値を増やすこと」

だと言えるのかもしれません。もちろん、まだまだ検討は必要でしょう。

次回は、「現代で、知的生産を行うことの意味」について考えてみます。

▼参考文献:

知的生産の出発地点でもあり、当連載のテキストでもあります。

» 知的生産の技術 (岩波新書)


▼今週の一冊:

「役に立つ」投資の本って、案外少ないのですが、本書はその一冊に数えられるでしょう。

具体的な投資の方法ではなく、「リスクといかに付き合えばよいのかが」示された本です。そのため、投資に限らずリスクに関わる仕事をしている人ならきっと得るものは多いはずです。というか、「生きる」ということ自体がリスクフルなものなのですから、何かしら役立つことが見つけられるかもしれません。

» 伝説のトレーダー集団 タートル流 投資の黄金律


▼編集後記:
倉下忠憲



なんかもう知らない間に月末ですね。原稿の長いトンネルを抜けると、そこは原稿だった、という笑えない状況です。今月も月末に電子書籍の新刊が発売され__る予定です。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。