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短期集中連載 「有料メルマガを巡る冒険」 第四回 宣伝とコンテンツの上乗せ

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倉下忠憲

前回まではこちら。


情報に値段をつけることは、なかなかやっかいな問題なのです。

今回は、値段をつけるのと同じぐらいに__あるいはそれ以上に__難しい「宣伝」について書いてみます。

売るものを作ることと、それを宣伝することは切っても切れません。もし、有料メルマガをスタートしようと思っているなら、宣伝についても真剣に考えたほうがよいでしょう。本稿では、メルマガの運営を続けてきた中での試行錯誤を紹介しますので、それが助けになるかもしれません。

また、宣伝活動から派生的に生じたコンテンツの外部的な広がりについても書いてみます。

増えない、読者

私は、間違った人に間違った広告が届くのが、あまり好みではありません。ようするに、興味がない広告を押しつけられたくないのです。同じように、サービス提供者としても興味を持たれない広告を押しつけるのは避けたい、と考えています。

ですから、メルマガをスタートした直後はとても控えめに「宣伝」していました。わざわざ括弧をつけたのは、宣伝とは呼べないほど弱々しい活動だったからです。スタート時の宣伝活動を全て列挙すると、

  • Blogに「メルマガ」の紹介ページを付ける
  • Blogのサイドバーにメルマガへのリンクを貼る

この二つだけです。

これであれば、興味がある人しか見ないでしょうから、間違った広告を届けてしまう状態は避けられます。しかし、逆に言えば興味がある人しか見ないわけで、宣伝力が高いとは言えません。実際、購読者数の増加は、傾きゼロの直線とあまり変わらないものでした。しかし、「まあ仕方がない。こういうものだろう」と思い込んでいたのです。

最初の変化

宣伝活動に変化が生まれたのが、津田大介さんのメルマガの存在です。

津田さんは、Twitterでメルマガの感想をじゃんじゃんリツイートされていて、それを見た私も幾度か「購読しようか」と思ったことがあります。きっと、あのリツイート爆撃(と私は呼んでいます)で購読者数は増えているのでしょう。

単なる宣伝が、あの頻度で流れてきたらさすがに辟易しますが、コンテンツに対するコメントだと、そんなに違和感はありません。それでも、ちゃんと宣伝になっています。

「宣伝ではない宣伝」

これは面白そうだ。他には何か方法はないだろうか。そう考えて、以下のようなツイートをするようになりました。



「書き上げた来週分の原稿+メルマガ紹介ページへのURL」です。私は一日一つのペースで連載を書いているので、日が進むごとに、ツイートの中身が変化していきます。ある種の進捗報告でもあり、どんなコンテンツを書いているのかの宣伝にもなっています。

このツイートをするようになって、購読者さんの増え方が変わりました。もちろんプラスの変化です。しかし、それはまだわずかばかりのものでした。

力強い、でもスルーされる宣伝

「宣伝ではない宣伝」は、その形式からして宣伝力はあまり強くありません。そもそも、何かの告知をしているように捉えられないこともあるのです。言い換えれば、「私は、これをあなたに伝えようとしているよ」というメッセージ性が弱いのです。

先ほど引用したツイートと、以下のツイートを見比べてください。



こちらは、明らかに宣伝です。クリック希求力は大きく違うでしょう。しかし、このツイートを毎日投稿してしまうと、興味がない広告を押しつけることになりはしないか、という懸念が私はありました。だから、このタイプのツイートはずっと「封印」していたのです。

しかし、素直にツイートの読み手の立場になってみると、それは考えすぎではないかと思うようになりました。私のタイムラインにも、上のようなツイートが流れてくるのですが、ほぼ読み飛ばしています。人間の慣れとはすごいもので、まったく目に入らない(意識にのぼらない)のです。

はじめて見た人、見慣れない人には希求力があり、それ以外の人はスルーする。そんな効果があるような気がします(検証はできていませんが)。

さすがに上のような固定的なツイートの割合が増えてしまうと、アカウントそのものの面白さが減じてしまうことはあるでしょうが、一日一ツイートくらいなら目が流してくれます。

この定期ツイートをするようになって、爆発的とは言えないものの、直線の傾きを感じられるほどには、ジワジワと購読者さんが増えていくようになりました。

告知ページのリニューアル

もう一つ、はっきり効果があったのが紹介ページのてこ入れです。

それまでツイートに含めていたURLは、配信プラットフォームである「まぐまぐ」さんの紹介ページだったのですが、多プラットフォーム化を見据えて、自サイトの紹介ページに変えることにしました。

しかし、当初作ったページが非常にダサいのです。「告知する気あるの?」と自分で疑いをかけたくなるような投げやりなページでした。それを、とあるメルマガの紹介ページを参考にして、大きくリニューアルしたのが以下のページ。

mmbanner

Weekly R-style Magazine(R-style)

ページのデザインのついでに、バナーも新調しました。やはり見た目は重要です。

また、文章にも大きく手を入れました。

普段文章を書くときは、「書き手」モードになり、意識的に「売り手」(元コンビニ店長です)の思考を抑えるようにしているのですが、このページでは「売り手」を前面に出して書いてあります。といっても、誇張表現が入っているわけではありません。シンプルにメルマガを宣伝しているだけです。

しかし、メルマガをはじめたばかりのころは、そのシンプルな宣伝もなかなかできなかったのです。自信がなかったのか、気恥ずかしさがあったのか、あるいは別の理由なのかはわかりません。ともかく、宣伝を自重していた時期があり、そのころはあまり購読者さんが増えなかったことだけは確かです。

私は一人で運営しているので、「書き手」と「売り手」は共に私の役割です。せっかく毎週コンテンツを作っていても、その宣伝をしないのは、ある意味で「売り手」的側面の怠惰と言えるかもしれません。

謙遜は美徳かもしれませんが、「自分が面白いと思っているものを作っているなら、きちんと宣伝しなきゃいけないな」というのが、今のところの感想です。

宣伝? 付加コンテンツ?

以上のような宣伝活動を行ってきたわけですが、津田さんのメルマガ感想リツイート作戦ももちろん取り入れました。感想があれば、Twitterでつぶやいてくださいね(※)、と購読者さんにお願いしたのです。
※他にもFacebookグループや、メルマガですのでメールでの返信も受け付けています。

専用のハッシュタグ(#WRM感想あるいは#倉下さんのメルマガ)もあるので、私がコメントを追いかけるのも簡単です。それらをまとめたカスタムタイムラインも作ってあります。

当初は、メルマガの「面白さ」を伝えるための宣伝活動かなと思っていたのですが、どうやらそれだけではないことに気づきました。

楽しいコメント

第一に、私がそれらのコメントを読んでいて、楽しいのです。

「メルマガ面白かったです」という感想は、単純に嬉しいものですがそれだけではありません。私が投げたパスを斜めに投げ返してくれるようなコメントも見かけます。「なるほど、そういう見方もあるのか」「そんな風に捉えられるのか」「あんな分野にも関係あるのか」と驚くことが少なくありません。

そうした感想に触れていると、私自身も(提供者ではなく)コンテンツの参加者のような気分がしてきます。というか、実際にそうなのです。発信者:受信者という安易な二軸の対立はここにはありません。

広がるコメント

第二に、そうしたコメントによって購読者さん同士につながりが生まれていることです。

ハッシュタグを追いかければ、他の購読者さんのコメントを見ることができます。それにリプライしたり、フォローしあったり、なんてことが起きるわけです。

いうなれば、私が仕切りの飲み会において、参加者の人が__私を抜きにして__ワイワイ盛り上がっているのを眺めている、そんな感覚があります。
※ちなみに、私はそういうシチュエーションがすごく好きです。

メルマガのコンテンツはコンテンツとしてありながらも、それに対するコメントもまたコンテンツの一部に加わっていく。言い方を変えれば、コメントによって「面白さ」が上乗せされる。そういう効果が、メルマガ感想ツイートのリツイートにはあります。

宣伝も大切ですが、それ以上の何かがここに含まれているような気がしています。

さいごに

四回に分けて、有料メルマガについて書いてきました。

私は執筆活動におけるエンジンとして、プロトタイプを出すところとして、人が交流する場として、メルマガを位置づけています。

もちろん、これは「私のメルマガ」の話であり、有料メルマガについての一般論ではありません。どんな情報を、どのような目的で、誰に向けて発信するのか。そして、それは運営者の活動の中にどう位置づけられるのか。そうした要因によって、メルマガの運営スタイルは変わってくるでしょう。運営の黄金方程式はありません。

しかし、値段を付ける難しさであったり、宣伝の重要性であったりする部分は、どんな有料メルマガでも共通していると感じます。むしろ、何かを売る活動なら全般的に発生する課題でしょう。運営者は、そうした課題を自分で判断し、自分で行動してクリアしていかなければなりません。

この連載記事が、その助力になっていれば幸いです。

▼今週の一冊:

「考えるな」

と聞くと、「感じろ」と反射的に思い浮かべてしまいますが、本書は思考停止を促しているわけではありません。

むしろ「考えること」と「感じること」のハイブリッドな手法を提案しています。ただし、私たちはふだん「考える」哲学に強く影響されているので、それを弱めない限りは、バランスの取れたハイブリッドにはならないでしょう。そこで本書では、「考えない」哲学に重きが置かれています。

ビジネスの(あるいはビジネス書の)方向としては、マニュアル・チェックリスト式の推進と、創造性・直感力の活用の二通りがあるわけですが、現実を見ればそのどちらかに極端に偏るのは危ないことがわかります。マニュアルで対応できるのは、想定できることだけですし、それはつまり決められた市場での戦いを意味します。そこにイノベーションはありません。しかし、全てを直感にまかせれば、サイコロを振って会社経営しているのと変わりません。持続性・継続性はかなり不安定になるでしょう。

そこでハイブリッドな手法です。どちらかに立って、もう片方を批判・攻撃するのではなく、それぞれから何かしら役立つところを抽出したり、あるいは組み合わせたりする。そういう力は、新しいビジネスを回していく上では、相当に重要ではないでしょうか。もちろん、ずっと停滞し続けていられるビジネス環境なら、「考える」だけで事足りるのかもしれませんが。


▼編集後記:
倉下忠憲



以前応募していた、「ライトなラノベコンテスト」の最終選考まで残り、なんと最優秀賞まで受賞してしまいました。「えっ」のあとに、「!」が256個続くぐらい驚いております。といっても、もともと「物書き」と名乗っているので、何かが変わったりはしません。とりあえず電子書籍発売に向けてリライト進行中です。お楽しみに。

ライトなラノベコンテスト最終結果発表 – ライブドアブログ


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。