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ビッグアイデアとEvernote

倉下忠憲
ビッグデータ時代に、個人のアイデア発想はどう変わるのか?

ということを以下の本を読みながら考えました。


「小規模ではなしえないことを大きな規模で実行し、新たな知の抽出や価値の創出によって、市場、組織、さらには市民と政府の関係などを変えること」

そんなビッグデータが当たり前とされる世界では、「ゴミ同然」に扱われていたデータが、突然「宝の山」にバケてしまう。本書では、そうした事例が数多く紹介されています。

  • 規模による量から質への転換
  • ゴミが宝の山に
  • なんでもデータ化する

こうした要素を見てみると、ふとEvernoteの使い方に重なるものが浮かんできました。

大量のデータありき

従来は、数が膨大になる場合には、そこから抜き出した標本に頼るほかなかった。19世紀以来の常識だ。標本抽出は情報化社会の産物であり、アナログ時代の情報を扱ううえで当然の制約だった。

データを集めるのにコストがかかる。それを保管するにもコストがかかる。ましてや大量のデータなんて扱いようがない。

そういう時代では標本抽出アプローチは有効に機能していたのでしょう。しかし、それが必ずしも唯一絶対の方法とは言えません。

簡単にデータを集められ、保存するコストも下がり、大量のデータでも扱えるようになれば、データの扱い方にも新しい次元が見えてきます。

個人の発想プロセスにおいても、その次元はもう見えてきています。

発想の標本抽出

発想の第一歩目はメモです。

思いついたことをメモする習慣から、知的生産が始まると言っても過言ではないでしょう。

しかし、多くの場合、このメモには「すばらしいアイデア」しか書かれません。ということは、ほとんど書かれない、ということです。

なにせメモのするのは面倒だし、メモ帳もタダではありませんし、たくさんメモしてしまうと探しているアイデアを見つけるのも難しくなります。だから、「すばらしいアイデア」だけをメモしたくなるのもわかります。これはちょっと標本抽出に似た部分がありますね。

デジタルツール+スマートフォンの登場で、メモする面倒さと、それを保存するコストは劇的に下がりました。テキストを打つのが面倒ならば、手書き、音声入力、写真とさまざまな手段でメモを残すことも可能です。すると、「すばらしいアイデア」だけではなくて、「ちょっとした思いつき」も残しやすくなります。

その大半は「ゴミ」のように見えるかもしれません。それに数もたくさんあります。しかし、Evernoteであれば簡単にそれらを扱えます。

乱雑に管理するからこそ

図書館のカード式目録の場合、覚えるのが大変だが、「スモールデータ」の世界では、何ら支障なく機能していた。しかし、「何がどこにあるのか全部わかっていること」が前提の方式のため、規模が何桁も上がってくると破綻してしまう。

逆に考えれば、「何がどこにあるのか全部わかっていること」を守ろうとすると、扱えるデータの量は限られてしまいます。

おそらくEvernoteのノート数が5000を超えている人は、「何がどこにあるのか」を全部把握していることはないでしょう。「どこにあるのか」だけではなく、そもそも「何が入っているのか」すらわかっていないことも珍しくありません。しかし、問題なく使えてしまいます。

それは、ノートブック+タグという二軸の管理要素と、強力な検索のバックアップのおかげです。

普通のメモ帳やノートだとこうはいきません。蓄積はできても、後からそれを引っ張り出せないのです。すると、メモする数を限定したい気持ちが出てきます。

しかし、検索で引っ張り出せるのならば、「何がどこにあるのか全部わかっていること」を満たす必要はありません。つまり、スモールデータの世界から抜け出せるようになります。

「乱雑な管理」こそが魅力

そもそも正確さ第一のシステムは、きれいごとで済まない現実を無理やり無菌室に押し込むようなものである。世の中のあらゆる要素がスプレッドシートの行と列にお行儀よく収まるわけではない。

綺麗に整理されたデータベースは、見た目心地よいものですが、それで全てが扱えるわけではありません。そのデータベースに入れるために、手足を切り落としてしまっていることも考えられます。

連絡先を管理する場合、名前、電話番号、住所、所属先、最後に会った日、などの項目を使えば、効率的に情報を管理できます。しかし、「13年式Gトラクター買いたし」 と新聞に広告を出さないと連絡が取れない人は、このデータベースにどのように入力すればよいのでしょうか。

もちろん、これは極端な例です。でも、データを杓子定規に扱いすぎると、何かがそぎ落とされたり、あるいはデータ外になってしまう可能性については考慮しておく必要があるでしょう。

なにせ、アイデアというのは「既存の要素の新しい組み合わせ」です。「よくある分類」にアイデアを押し込めていくと、新しい発想の芽をつぶしている可能性すらあり得ます。

『Evernote「超」知的生産術』でも触れましたが、Evernoteはこのあたりの柔軟性が非常に優れています。まさに、大量の、乱雑なデータを扱うためにぴったりです。

さいごに

最近のEvernoteは、検索だけではなく「関連するノート」によってノートを提示してくれる機能もあります。これは、さらに「ゴミ」を「宝の山」に変えてくれる効果があるでしょう。

ビッグデータが当たり前に使われる時代では、もしかしたら平均点の「企画」は全てビッグデータから構築されるようになるかもしれません。そうすると、アイデア力は、「その人でしか出せない企画」をいかに出せるのかが問われるようになるでしょう。

そうしたアイデアは、5年や10年といった個人の経験と知識と発想の蓄積__つまりビッグデータ__から生み出せるのかもしれません。


▼編集後記:
倉下忠憲



最近、「げんちけん」について構想を練っています。「現代知的生産研究会」、略して「げんちけん」。今のところ、どのようなテーマを扱うのかを複数人でブレストしている段階なのですが、ちょっと「うっ」と言いたくなるぐらい幅広くなりそうです。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。