※当サイトはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています。

「わからなかったら、書こう」メソッド

倉下忠憲
というメソッドが、私にはあります。

  • 読書で得た情報が、捉え切れていないと感じたら
  • 人から聞いた話が、漠然としすぎていたら
  • いろいろな考えが、ぐるぐる頭の中で回っていたら

やや大きめの紙を取り出して、そこに書き出していきます。

書き出すのは「文章」でなくても構いません。単語や短い文をずらずらと並べていくだけでも大丈夫です。しかし、単語同士のつながりや文の因果関係には注意を払います。「構造化」とまではいきませんが、情報の関係性を少しでも明らかにしようと努めます。

はじめは、うまくいかないかもしれません。きっと書き直しが必要なこともあるでしょう。しかし、そうして手を動かし続けていると、徐々に頭の中の靄がはれ、理解の光明が差し込んできます。


狭小な頭空間

頭の中は、考えごとを発展させていくスペースとしては手狭です。あるいは思考を整理する場所としても余裕がありません。

ひどく散らかっている、小さい机を整理しなければならない状況を思い浮かべてください。ものを移動させようにも、移動先の場所を空けるためのスペースすらありません。そういう時は、別の場所にものを一旦移動させ、スペースを作ってから整理を進めていくのが一番です。

思考の整理にも似たような側面があります。

人間の脳は、大量の情報をストックしています。また情報処理のスペックもかなり高いものです。しかし、その大半を使用しているのは「無意識」です。「意識的」に考える場合、私たちが使える領域はそれほど広いものではありません。ジョージ・ミラーの「マジカルナンバー」が示すように、大きな(あるいは数が多い)対象を短期記憶(作業記憶)だけで対処するには限界があります。

そこで、それを補助する何かが必要になってきます。机上のものを一旦待避させる場所。それが紙です。
※もちろん、パソコンツールでも問題ありません。

五桁同士のかけ算ならば、暗算は早々にあきらめるでしょう。であれば、難しい問題を黙考で済ませようとするのには無理があるはずです。

思考のメソッドとしての書く力

『20歳の自分に受けさせたい文章講義』という本に、以下のようなことが書かれていました。

われわれは、理解したから書くのではない。
理解できる頭を持った人だけが書けるものではない。
むしろ反対で、われわれは「書く」という再構築とアウトプットの作業を通じて、ようやく自分なりの「解」を掴んでいくのだ。

わかったことを書くのではなく、書きながら「わかる」を増やしていくという感じでしょうか。

頭の中で、思考や情報はバラバラな状態になっています。もちろん、頭の中をのぞき込むことはできませんが、感覚として「理路整然」とは、ほど遠いものでしょう。特に新しくインプットした情報であればなおさらです。

文章という一つの道筋に沿ったものに定着化させていくことを通して、情報を整理していく。思考を紙の上に移し替える行為には、そんな意味もありそうです。

20130426095122

本を読んだら、手を動かそう

『20歳の自分に受けさせたい文章講義』には、次のような文章もあります。

書くことは考えることであり、「書く力」を身につけることは「考える力」を身につけることなのだ。”書く”というアウトプットの作業は、思考のメソッドなのである。

これはまったく同感です。だから、拙著『ハイブリッド読書術』では読書メモの作成や書評記事を書くことに触れました。

「考え方」を読書から学び、「考える力」の実践的トレーニングを書くことで行う。読書メモや書評記事の作成にはそういった効果があります。

これまでこうしたものを作成したことがない方は、是非とも一度トライしてみてください。手を動かすことで理解するという感覚が得られると思います。言い換えれば、わかる、ということが、わかるかと思います。

さいごに

ちなみに、「書くこと」が持つ力は、「本を書く」場合に一番実感できます。

だいたいにおいて、本を書く行為は、理解していることをそのまま書き写すものではありません。むしろ、本を書きながら理解を進めていく側面が強くあります。「あっ、これはこういうことか」という発見が一度ならずあるわけです。

つまり、執筆には(多少なりとも)自身の変質が伴うのです。書き出す前と、書き終わった後の自分とでは、何かしらの違い__文章を書いて疲れた以外の違い__があるものです。

文章の形にしなくても、他の誰かに口頭で説明してみるのでもよいでしょう。そうするだけで、「わかった」を増やせます。それに「わかったつもり」を激減させることもできるでしょう。

▼参考文献:

タイトルの通り、文章に関する講義です。といっても、文法や語彙について紹介されているわけではありません。文章作法といった技術的な話よりも、もう少し手前の心構え、考え方の部分が多く含まれています。

「思っていることをそのまま書く」のではなく、それを「翻訳する」というアプローチは、書くのが苦手な人にとって有用かもしれません。


▼今週の一冊:

そういえば紹介するのをすっかり忘れていました。
※まあ、印刷部数からいって私が紹介する必要はないでしょうけども。

村上春樹さんの新作です。発売日の朝に買って、その日にむさぼり読みました。いやはや、やはり面白い。入手困難な書店さんもあるようですが、ご興味ある方は是非。


▼編集後記:
倉下忠憲



普段、引きこもり物書きとして活躍(?)している私ですが、今月は大阪や仙台や東京に出張っております。なかなか刺激がありますが、やっぱり地元がいいよね、と年老いた人間みたいな感想が出てきてしまいますね。


▼倉下忠憲:
新しい時代に向けて「知的生産」を見つめ直す。R-style主宰。