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新しい脳力を身につけるための2つの戦略
2008/09/18 Thu 18:10 by 佐々木正悟 このエントリをはてなブックマークに追加 このエントリを含むはてなブックマーク

タグ:『MIND HACKS』 / 『脳は空より広いか―「私」という現象を考える』

・雨だれが石を穿つように少しずつ変えていく
・一点集中で一気呵成に変える


脳は堅牢なシステム


脳の特徴というと、一言では言えないほどいろいろあるのですが、このお話の中では特に堅牢性というものについてお話ししたいと思います。脳の堅牢性というのは、例えば多様な入力の形式があるにもかかわらず、一定の出力に安定させることが出来るというようなことを言います。

私たちはトマトの赤色の部分に注目してもトマトだと思うし、トマトのシルエットに注目してもやはりトマトだということが解ります。マンガで白黒に描かれたトマトが赤く見えなくても、トマトであると気づくのと同じです。あるいは話が野菜の話だとわかっていれば、トマ、という言葉を聞いただけで、トマトがちゃんと頭に思い浮かびます。

このように脳はいろいろな断片情報を入力しただけで、全体としてはしかるべきクオリアを出力することができるのです。犬の尻尾を見ただけで、尻尾しか見えていないのに、犬の全体像が心に浮かぶ。そういったことも、脳の堅牢性と深い関係があります。

このことを『Mind Hacks―実験で知る脳と心のシステム』では次のように述べています。

文章を読む際、話を聞く際に、同時に複数の情報を処理する、というのは、文章を理解するための手掛かりが多数あるということである。情報に多少抜けがあっても、誤りがあっても、他の情報、手掛かりによってそれを補い、正すことができる。騒がしい場所で何とか話を聞き取れるのもそのためである。ただ、そのために、文章を読んでいてスペルミス、誤字などを発見することが逆に困難になっているというのも事実だ(特に自分の書いた文章の場合は誤りが見付かりにくい。何が書いてあるかをよく知っているため、誤りを自動的に修正して読んでしまい、意識にのぼりにくい)。多数の異なった情報を同時に取り入れるため、個々の情報に誤りや不完全なところがあっても、それが問題になることは少ない。他の情報で不明な点を明確にすることができるからだ。この「エラーに強い」という点が脳の特徴だろう。
Mind Hacks―実験で知る脳と心のシステム p198


このように、エラーに強いということは、少しぐらい入力に間違いがあったとしても、それは正しいものとして判断しなおせるということです。文章中に誤字があったとしても、人間であれば、問題なく読み進めていくことができます。

ほかにノイズを利用するという脳の特殊な性質があります。脳にはご存じの通り、色々な電気信号が発生し続けているのですが、そうしたノイズがあったとしても、それによって脳がいちいちノイズに対処しなければ正しく判断できないということはありません。いろいろな気分の時、あるいはいろいろな環境の中で、例えば家から駅まで向かうといった時、脳はきちんと家から駅まで向かうための記憶、運動野などを正しく制御できます。

この点について、『脳は空より広いか―「私」という現象を考える』の中で筆者は次のような比喩を使います。「脳は氷河のようなものだ」というのです。氷河というものは、気候の変動・気温の変化で、氷が溶けたり、あるいはまた固まったりするなど、いろいろと姿形を変えるものですが、最終的に麓の湖に注いで行く点ではあまり変わらず、その湖の形に大きな変化は通常現れません。氷河というものは、形を刻々と変えるものではありますが、長い歴史の中ですら結局それほど大きな変貌を遂げずに同じ姿を保ち続けることすらあるのです。

脳もこれと全く同じように、日常生活の刺激の中で激しく変化への刺激を受けるにもかかわらず、私たちの性格、私たちの行動パターンというものは、それほど変化しないのです。脳の堅牢生徒は、ざっとこのようなイメージでとらえればいいかと思います。

少しずつ形を変えていく


さて、少し前置きが長くなりましたが、このようにきわめて堅牢なシステムを持っているために私たちの行動というものは、環境変化や多彩な刺激にもかかわらず、比較的安定していて同じようなパターンをとりがちです。

このため、私たちの脳に新しいことを学習させるとなると、その堅牢性が邪魔をして容易ではなくなることもあります。たとえば、英語ができるようになりたいというときに、脳は英語ができないままの脳、そのようなものとして安定していたいという性質をくずさないのです。

言ってみれば、英語ができないままでありたいと、脳は考えるわけです。それでもなお、英語ができるようになりたいと本当に思うなら、英語が出来ないままでありたいという脳の性質を考慮しつつ、実際には英語が出来るようならなければならないことになります。

どうすればいいか。
まず簡単に思いつく方法として、組み込みという方法があります。つまり日常生活に大きな変化を与えず、大きな動揺を与えないままで、少しずつ私たちの生活の中に英語学習や英語にふれる機会を組み込んでいくわけです。

そのためにはネットブラウザの最初のページから、強制的に英文が現れるようにするとか、あるいはニューズウィークの一番最後の方に英語学習用のページがありますが、ああいったページには必ず目を通すというような習慣をつけることです。紅茶やワインのラベルにもよく英文が書かれています。読む義理はなくても、ああいったものを読んでみるのも方法です。

私たちは英語が出来るようになりたいと、すぐに英書を一冊読むとか、英単語三千語を覚えるといった方法を試したがりますが、こういったことは日常生活に組み込めるものではないわけです。実際問題としては、英会話のテレビを15分だけ見るとか、そのようなことが限界ではないかと考えられます。

それでは勉強にならないと考えるよりも、まずそうしたレベルの習慣を、自分たちの「氷河」に組み込んでしまうことです。そのようにして「氷河」に新しい道筋ができれば、麓の湖の形も少し変わるかもしれないのです。英語が出来ないままであろうとする形を、少しずつ変化させる試みが、使いやすい方法といえるでしょう。

劇的変化を求めてみる


しかしもう一つ、劇的な変化というものを「氷河」に与えてしまうという試みも考えられます。

たとえば、アメリカでいきなり生活を始めてしまうといった方法です。こうすることによって、脳が元のパターンを維持しようと思っても、環境自体が劇的に変化してしまえば、もとのパターンの維持は大変難しくなります。

したがって、急激に英語の勉強をするために英書しか読まないことにするとか、英字新聞を毎日読む、といったことに挑戦してみるのも一法です。これは昔から悪い方法だとはされています。

つまり、ほとんど根性主義であり、一気に変えようとして挫折するのはたいていこのパターンだとされます。しかし挫折してもいいのです。まるで地球温暖化になってしまったように「氷河」を一気に溶かしてしまうことを試みます。脳のパターンに劇的な衝撃を与えるのです。

そうすることで一気にできるようになる方法を探るというわけです。もちろんこの方法は挫折するでしょう。しかし挫折は問題ではありません。このような劇的なショック療法は、継続的な効果を期待するというよりは、挫折してもいいのでまた間を開けて、もう一度ショックを与えては、形を変えることを試みるのです。

徐々に少しずつも新習慣を日常生活に組み込む。
気が向いたらショックを与える意味で劇的な努力を時々やってみる
この2つの戦略を組み合わせた方法によって、学習はうまくいくのではないかと期待されます。

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