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ストレスに強くなるには
2006/10/05 Thu 17:58 by 大橋 悦夫 このエントリをはてなブックマークに追加 このエントリを含むはてなブックマーク

タグ:『脳はなにかと言い訳する』 / ストレスとうまくつき合うには?

何らかのストレスを感じている状況で「現在の環境をストレスに感じる必要はない」と“記憶”することによって、いわゆる「場慣れ」が実現します。例えば、最初は大勢の人の前に立つと、それだけでアガってしまっていた人が、繰り返し「大勢の人の前に立つ」というストレス状況に置かれることによって、記憶を上書きしてアガりを克服できるわけです。

この一連のプロセスでは海馬(脳内で記憶をコントロールする部位)が重要な役割を果たしている、というのが前回の「ストレスと記憶力の関係」の内容でした(参考:『脳はなにかと言い訳する』)。

さらに興味深いのは、過剰なストレスは海馬の働きを弱めるものの、適度なストレスは海馬の“成長”を促すという点です。


これについて、同書では以下のようなネズミを使った実験を取り上げています。

 ●ネズミをある箱の中に入れる(箱の底は電流が流せるようになっている)
 
 1.ブザー音を聞かせてから電流を流すと、そのネズミは箱から出しても、音を聞かせるだけでブルブルと震えるようになる
 2.音なしで突然電流を流し、翌日同じ箱に入れると、そのネズミは箱に入っただけでブルブルと震えるようになる

これら2つは似たような状況のように見えますが、それぞれ脳内ではまったく別の部位が関係しているそうです。

1の音を聞かせてから電流を流す方は扁桃体(へんとうたい)が、2の音なしで電流を流す方は海馬がそれぞれ記憶を担当しており、後者は克服できるとされています。

海馬は、恐怖を記憶するけれども、ストレスへの対処も担当します。先ほどの実験で、一度、怖い思いをした箱にネズミを戻すと最初はブルブル震えますが、それ以上、電流を流さないままでいますと、やがて震えなくなります。「なんだ、ここはちっとも怖くないな」と感じるようになったのでしょう。

これは恐怖が消えたというよりも、恐怖記憶の上に、「怖くない」という別の記憶が上書きされて、蓋をされた状態だと考えられています。こうしてストレスが減ります。

(中略)

つまり、海馬が活性化すればするほど、ストレスへの順応が早くなるというようなのです。また、長い間、ストレスを受けていると、海馬の細胞が減ってストレスに負けてしまうこともわかっています。

このように、海馬を鍛えることによって、より強いストレスに耐えられるようになる、ということです。

扁桃体については、うまく失敗するコツでも取り上げています。

ところで、脳には扁桃体という感情を司る中枢があります。人が何か身の危険を感じた時にとっさに反応できるのは、知識がものを言っているのではなく、扁桃体が刺激されているから、というわけです。

本当に行動に結びつくのは、知識の多寡ではなく身に迫る危険や恐怖なのです。そう考えると、意図的に扁桃体が刺激されるようなことをすればよいことになります。

適度な負荷を与えることで成長する海馬に対して、扁桃体はあくまでも危険や恐怖を感知するセンサーとしての役割を担っているようです。

上記の実験ではネズミの恐怖記憶の変化が観察されていたわけですが、この恐怖記憶とその克服という構造は仕事にも見いだすことができます。

仕事でミスをすることによって、上司に怒られたり、取引先の信用を失うなどの“痛い目”に遭うことによって、その経験は恐怖記憶として脳に刻まれます。遠くから上司の声が聞こえてくるだけでドキッとするようになったり(「扁桃体センサー」が反応)、ミスをした時と似たような状況に置かれると緊張したり(海馬が記憶を呼び起こす)といった反応が生じるようになります。

でも、ドキッとしたり、緊張したりするにしても、それが過剰なものでなければ、仕事には良い影響を与えるはずです。例えば「同じ失敗を繰り返さないようにするにはどうすればいいか?」という対策を真剣に考えるようになるでしょう。こうして前回ミスをした仕事をうまくやり遂げることができれば、その体験で恐怖記憶が上書きされて、自信が持てるようになるわけです。

そう考えると、大切なことは、今の自分のレベルにあった適度なストレスを進んで受け入れることだと言えるでしょう。そのためには、自分のキャパシティを少しだけ超える程度のチャレンジを繰り返すこと。

こうすることで経験値が蓄積されて、海馬のレベルがアップしていく、すなわちストレスに強くなっていくわけです。簡単にこなせる仕事ばかりをやっていても、それはロールプレーイングゲームで弱い敵ばかりを相手にしているようなもので、いっこうにレベルがアップしない、ということになります。

優れた企業経営者の中には自分を適度に追い込む(≠追い詰める)ことに長けている人が多いような気がします。自分を追い込むこと、すなわちチャレンジを繰り返すことによって、リスクを察知する「扁桃体センサー」が磨かれ、海馬が鍛錬されているわけです。




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