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あえて追われる身に扮する
2006/04/12 Wed 20:21 by 大橋 悦夫 このエントリをはてなブックマークに追加 このエントリを含むはてなブックマーク

タグ:取りかかるためには?

最近ようやく『ダ・ヴィンチ・コード』を読みました。来月20日に映画が全世界同時公開されることで話題になっていますが、読み始めたら止まらなくなり、週末2日間で上から下まで読み終えてしまいました。

「24 -TWENTY FOUR-」にはまっていた時にも感じましたが、このようについつい引き込まれてしまうストーリーには共通点がありそうです。


その1つはタイムリミットの存在です。

『ダ・ヴィンチ・コード』においては、もし「追われる身」という制約がなければ主人公たちはもっとゆったりと暗号解読にいそしめたでしょう。でも、実際に時間に余裕があれば、物語としてのテンポが失われるのはもちろんですが、解読に挑戦する主人公たち自身もあれほどの高い集中力と、そこから絞り出されるひらめきの発露は期待できなかったのではないでしょうか。

読む側としても、暗号解読に取り組んでいるシーンはついつい引き込まれますが、その理由は難解な暗号が目の覚めるような鮮やかさで次々と解読されていく爽快感にあるのでしょう。いわゆる「アハ体験」です。一度わかってしまえば文字通り「なんで最初からこれに気づかなかったんだろう!?」というものばかりです。

一方、「24 -TWENTY FOUR-」は、逆に「追う立場」での時間のプレッシャーを感じさせます。定刻を過ぎてもバスがなかなかやって来ない時の焦燥感(間に合うのか?)、懸命に走ったのも虚しく電車に乗り遅れてしまった時の喪失感(遅刻が確定…)、間違えて各停ではなく急行に乗ってしまった時の不安(どこまで連れて行かれるんだろう?)、といった様々な感情がないまぜになって釘付けになります。

もう1つの共通点は「徹夜」です。

舞台となる空間が限定されていなかったとしても、「今夜中に」という時間枠が設定されていることにより、登場人物たちは先送りが許されないタフなミッションを負うことになります。

こういったギリギリの状況は、読んでいる側、あるいは観ている側に疑似体験をさせます。似たような実体験があれば、その時のことが思い出されて、自分が体験している時に近い反応をするのではないでしょうか。

つまり、締め切りに負われて仕事をしている時の心境と、映画の中で追い詰められていく主人公を見ている時の心境は似ている、もしくは同じなのではないか、ということです。

そして、こういったピンチを乗り越えた後にやってくる圧倒的な解放感や得も言われぬ安心感の心地よさがクセになり、「もっとピンチを体験したい」という欲求を喚起している可能性があります。

もちろん、映画や小説は放っておいても無事に終わりを迎えますから、スリルとしては限定的と言えます。でも、仕事は自分が終わらせない限りはいつまでもサスペンドされ続けるわけですから、事実上そのスリルには際限がありません。

とはいえ、人間には限界があります。適度なスリルなら行動を駆り立てる起爆剤になりえますが、度を超えると二度と立ち上がれないような深いダメージを負いかねません。

そこで、「徹夜」というハコを用意することで「朝が来れば事態は収拾するはず」という暗黙の“免罪符”を発行するわけです。

このように、タイムリミットが生み出すプレッシャーと、時間枠を限定することで発行される免罪符が多くの人を物語の中に引き込むパワーの源と言えそうです。

このパワーを仕事に応用するなら、タイムリミットに加えて、“ハコ”のサイズを決めてしまうことでしょう。例えば、「これから3時間はこの作業に没頭する」という宣言のもとで、その時間は脇目もふらずに決めた作業だけに取り組むことです。

下着メーカーのトリンプ・インターナショナル・ジャパンでは、「がんばるタイム」という制度があり、これが社員の集中力を押し上げる上で一役買っているようです。

毎日12時30分から14時30分の2時間、私語、オフィス内の歩き回り、仕事の依頼・確認など個人の職務に関する以外のことを禁止する「がんばるタイム」と呼ばれる制度(1994年より実施)

トリンプは、「がんばるタイム」以外でも「仕事のスピードをアップさせるコツ」でご紹介した「残業禁止」や「管理職は毎年連続2週間の休暇を義務づけ」などでも知られています。

「24 -TWENTY FOUR-」も「24時間」ではなく「24日」だったとしたら、あれほどのスリルと緊迫感は生まれなかったでしょう。つまり、ハコのサイズに余裕がありすぎると逆効果になるわけです。

夏休みが40日もあるから子どもたちがついついだらけるのであって、これがもし4日だったら、あるいは4時間だったら、うかうかしていられないことでしょう。

「仕事のスピードを無理矢理アップさせるコツ」では、ノートPCのバッテリー切れという「締め切り効果」を活用する事例をご紹介しましたが、これも「バッテリーが切れるまで」というハコがあるからこそ発揮されるパワーをうまく活用するものです。


人間誰しも追われるのはイヤなものですが、追われる時にだけ発揮されるパワーがある以上、これを意図的に活用することができれば、仕事をもっとラクに片付けることができるはずです。




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